円型校舎に宿る命 10月14日(金)

 みなさんは長年大切に使っている物がありますか。日本には、長年大切に使っている物には神や精霊が宿るという考え方があります。この神や精霊は、八百万の神や付喪神と言われています。みなさんが子どもの頃、身のまわりの物を乱暴に扱うと、家の人からその物が痛いよとか、泣いているよ、と言われた経験があると思います。これは、まさに物に神や精霊が宿るという考えが生活に根付いたものです。
 私は昨年12月に約8年、生活を共にした愛車を手放しました。娘や息子の誕生や親の介護や通院、辛い時音楽を聴きながらドライブするなど私にとっては相棒のような存在でした。様々な理由で愛車を手放し、新車を購入することになりました。新車が手元に届くことはうれしくもありましたが、反面別れの日が近づくにつれ複雑で寂しい気持ちもふくらんでいきました。ついに、愛車と新車が交代する日がきました。長年連れ添った愛車は新車に負けないくらいきれいにしました。新車を目の前にして、手放す車がこれからどうなるのか、次の持ち主がいい人であるように、などたくさんのことを考えていました。その時、手放す車は私に優しく微笑んでくれたように見えました。複雑な心境を察してくれたのか、販売店の人が、次の車もこの車と同じようにかわいがってあげてくださいと声をかけてくれました。その言葉に涙が止まりませんでした。
 みなさんの目の前にも、今まさに別れを告げようとしている建物があります。円型校舎です。62年間生徒を見守り続け、多くの卒業生がここから巣立っていきました。歴代の先輩方が大切に使われ、定期的に大掃除をしてきたおかげで今まできれいな状態で居続けられたと思います。これだけ長い時間、生徒に愛され生徒を見守り続けた円型校舎には,神や精霊が宿っているかもしれません。最後の大掃除があった5月11日の夕方、私は何気なくらせん階段を眺めていました。そうすると夕日が円型校舎に差し込み、得も言われぬ幻想的な風景を見ることができました。その時、私の思い込みかもしれませんが円型校舎が「ありがとう」と言ってくれたように思いました。幸いにもまだ円型校舎はあります。もう一度、温かい目で円型校舎を見てみませんか。そうすれば、みなさんに何か語りかけてくるかもしれませんよ。
 自然や物を大切にし、物にも神や精霊が宿るという日本人の優れた感性を大切にしながら生活してみませんか。